
奈良県生駒郡平群町、生駒山地の南のはずれにそびえる信貴山(しぎさん)。その中腹に、朱塗りのお堂と石灯籠、そして色づいた木々が斜面いっぱいに広がるお寺があります。信貴山朝護孫子寺(しぎさんちょうごそんしじ)です。毘沙門天王(びしゃもんてんのう)をご本尊とする、商売繁昌や開運招福のご利益で知られるお寺で、「信貴山さん」と親しまれています。
私が訪れたのは十一月のはじめ。石の鳥居をくぐると、ずらりと並んだ石灯籠の向こうに参道がのびていて、まわりの木々がちょうど赤や黄色に染まりはじめていました。山のお寺ならではの静けさと、紅葉のはなやかさが同じ場所にあって、歩き出す前から気持ちがふくらみました。
聖徳太子と毘沙門天王 ― 創建の由来

公式の由緒によると、信貴山と毘沙門天王の結びつきはとても古く、敏達天皇の時代(西暦五八二年)、「寅の年・寅の日・寅の刻」に聖徳太子がこの山で毘沙門天王を感得されたと伝えられています。その後、用明天皇の時代(五八七年)、聖徳太子は仏敵・物部守屋を討つにあたって毘沙門天王の加護を得て勝利し、みずから毘沙門天王像を刻んで、この山の守護本尊として祀られたそうです。境内のあちこちに寅の姿があるのは、この「寅」との深いご縁からなのですね。
時代はくだって、醍醐天皇が重い病にかかられたとき、勅命を受けた命蓮上人(みょうれんしょうにん)が毘沙門天王に病気平癒を祈願したところ、天皇の病はたちまちに癒えたと伝わります。西暦九一〇年には命蓮上人が伽藍や堂塔を建立し、天皇はこの寺を朝廷の安穏・国土の守護・子孫の繁栄を祈る祈願所として「朝護孫子寺」の勅号を授けられました。「信貴山朝護孫子寺」という長い名前には、こうした歴史が込められているのですね。
この命蓮上人のお話を生き生きと描いたのが、国宝「信貴山縁起絵巻」(三巻)です。近衛天皇のころ、西暦一一五〇年ごろに完成したとされ、日本を代表する絵巻のひとつとして知られています。
信貴山朝護孫子寺に行った感想

参道を進んでいくと、どんと目に飛び込んできたのが、この大きな張り子の寅です。白と黄色の体に黒いしま模様、大きく開けた赤い口。想像していたよりずっと大きくて、思わず足を止めて見上げてしまいました。首を振る「世界一福寅」としても有名で、信貴山といえばこの寅さん、という顔ですね。

石段をのぼった先には、「信貴山朝護孫子寺」の扁額をかかげた朱塗りの本堂が建っています。本堂は斜面にせり出すように建てられた舞台造りで、縁に立つと、眼下に堂宇の屋根が重なり、その向こうに木々の紅葉が広がっていました。

舞台から見わたすと、山の斜面に朱塗りの塔や大きな仏様のお姿が見えて、緑と紅葉のあいだで朱色がいっそう映えていました。写真で切り取っただけでも、この時期ならではの色の重なりが伝わってくると思います。

境内には多宝塔もあり、下から見上げると、まわりの木々ごしに二層の屋根がきれいに重なって見えました。朱と緑のコントラストが美しいお堂です。
剱鎧護法と空鉢護法

信貴山には、毘沙門天王のほかにもお参りしたい場所があります。ひとつが剱鎧護法(けんがいごほう)です。境内の案内板によると、今から千百年ほど前、醍醐天皇が重い病に罹られたとき、命蓮上人の祈願にこたえて剱鎧護法の使者が天皇の枕元にあらわれ、たちまち病が癒えたと伝えられています。以来、当病平癒・無病息災・病気全快の霊験あらたかな神さまとして、篤く信仰されてきたそうです。赤い鳥居が連なる参道は、歩いているだけで背すじがのびるような気持ちになりました。

朱色の鳥居には、全国の信者さんが奉納した地名やお名前が記されていて、横浜市や八尾市など、遠くの町の名前も見つけられました。たくさんの人の願いが積み重なってきた場所なのだと感じます。

さらに山の上へのぼると、空鉢護法(くうはちごほう)のお堂があります。案内板によれば、空鉢護法は剱鎧護法とともに毘沙門天王の御分身で、巳(へび)の姿、竜神となってあらわれ、信仰篤い人には一願成就のご利益を授けてくださる神さまと伝えられています。

お堂のあたりまで来ると、木々のあいだから大和平野がぱっと開けました。ここまでのぼってきたごほうびのような眺めで、しばらく風にあたりながらぼんやりしてしまいました。

境内には、馬にまたがった聖徳太子の御像もありました。信貴山と聖徳太子のご縁を思い出させてくれるお姿で、まわりの石灯籠とともに静かにたたずんでいました。

帰り道、赤い幟と紅葉が重なる一角で、もう一度足を止めました。朱色のお堂や鳥居と、秋の色がこんなに似合うお寺もなかなかないと思います。福の神・毘沙門天王のお寺らしい、にぎやかで明るい気配の残る参拝になりました。
信貴山朝護孫子寺の基本情報
| 観光地名 | 信貴山朝護孫子寺(しぎさんちょうごそんしじ) |
| 住所 | 奈良県生駒郡平群町信貴山(〒636-0923) |
| アクセス(電車・バス) | JR・近鉄「王寺駅」(北口)から奈良交通バス「信貴山門」行きで約22分、「信貴大橋」下車徒歩約5分。近鉄「信貴山口駅」からケーブルで「高安山駅」へ、近鉄バス「信貴山門」行きで約10分、「信貴山門」から徒歩約10分 |
| アクセス(車) | 西名阪自動車道「香芝IC」または「法隆寺IC」から約30分 |
| 駐車場 | あり(台数・料金は公式サイトで要確認。混雑する時期は利用できない日があります) |
| 拝観料 | 境内の参拝は自由。本堂の戒壇めぐり・霊宝館は有料(金額や特別公開の有無は時期によって変わるため公式サイトで要確認) |
| 拝観時間 | 公式サイトに明記がないため、お出かけ前に公式サイトでご確認ください |
| 電話 | 0745-72-2277 |
※この記事の写真は2015年11月に撮影したものです。現在の様子とは異なる場合があります。
























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